脳科学の発展
一昔前の脳科学分野の研究の主体は、部分的に脳障害を持つ人の研究でした。
特に、第一世界大戦、第二次世界大戦後には、そのような研究対象は非常に多く、
障害の部位と機能障害の内容を照らし合わせて、脳の各部位の機能を解明して行きました。
しかし、ここ数十年、高精度に脳の活動を高精度に測定する方法が開発されたため、これらの測定機器を使用することにより、飛躍的に進歩を遂げました。
被験者に特定のタスクを与え、活動する脳の部位との関連性を調べることにより、脳の機能が比較的容易に解析できるようになったためです。
近年の脳科学の発展は、脳の活動の計測器の発展による所が大きいと考えられます。
脳の活動を計測する代表的な方法を紹介しておきましょう。
脳波(EEG: Electro-Encephalogram)計
頭皮に付けた電極により、頭皮の電位変化を測定する装置であり、
脳波計(EEG:Electroencephalograph)で記録された図は脳電図あるいはEEGと呼ばれます。
脳波計では、実際に計りたい大脳皮質の各神経細胞からかなり離れた頭皮の電位を測ることになるため、
電極近隣の各神経細胞の電位を重ね合わせたものになります。
このため、脳の活動が比較的緩やかなリラックス時や睡眠時には、特徴的なδ波(0.5~4Hz)、θ波(4~8Hz)、α波(8~13Hz)などの周期的な脳波となりますが、
脳がある程度活発に活動している状態では、各神経細胞ごとの電圧が複雑に干渉するため、振幅が小さく不規則なβ波(13~30Hz)のような脳波となります。
脳磁図(EEG: Magneto-Encephalograpy)
脳が活動することにより、大脳皮質の神経細胞には微弱な電流が流れますが、電流が流れるとアンペアの法則に従い、微弱な磁場が発生します。
脳磁図は、この微弱な磁場を高精度に計測する技術です。
脳の活動で発生する磁場は10fT(フェムト・テスラ:フェムトとは10の-15乗)~1pT(ピコ・テスラ:ピコとは10の-12乗)程度です。
これに対して、屋外環境における一般的な電磁ノイズの磁場の大きさは10~100nT(ナノ・テスラ:ナノとは10の-9乗)ですから、
脳の活動で発生する磁場がいかに微弱であるかがわかるでしょう。
この微弱な磁場を計るため、『超伝導量子干渉計』という高感度の計測器が利用されています。
ポジトロン断層法(PET: Positron Emission Tomography)
比較的半減期が短い(数分~数時間)放射性トレーサーを人体に投与し、
トレーサーが体内で崩壊する際に放出される陽電子が体内の水分子の電子と反応して消滅(対消滅)する際に放出されるガンマ線を計測します。
脳が活発に活動すれば、その部位で代謝量や血液流量が増大し、その結果としてトレーサーの濃度が高くなります。
計測データはCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像法)と同様、コンピューターで画像処理され三次元画像として提供されます。
近赤外線(NIR:Near InfraRed)脳計測装置
波長600nm~1000nmの近赤外光は、頭皮や頭蓋骨など生体内を透過しやすい波長領域ですので、この光を利用した計測技術もあります。
酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンとで、この波長域の吸収パターンが異なるため、
2波長以上で吸収量を測定することにより、組織内の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビン濃度を知ることができます。
多チャンネル化すれば2次元的画像が得られますし、装置も比較的安価であることから、今後の普及が期待されています。
最終更新日:2011年8月8日