脳の機能と心と体の健康脳科学に基づく脳が老化しない習慣

脳の構造と脳の機能

脳の構造図を基に脳の構造と脳の機能をご紹介
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脳の構造と脳の機能

   我々の、知性、感情、意思という精神の働きのみならず、食欲、性欲などの欲望や、痛い・熱いといった感覚等の動物的な本能は、全て脳の機能によるものです。 不安になったり緊張したりすると、心臓の鼓動が高鳴るため、古くから心は心臓に宿ると考えられてきました。 しかし、心の働きは、全て脳の機能によるものなのです。 わずか体重の2~2.5%程度の重さしかない脳が、頭蓋骨の中で、硬膜、くも膜、 柔膜 にゅうまく という3重の膜とその間に満たされた 脳脊髄液 のうせきずいえき に守られ、我々の体の司令塔のような機能を果たしてくれます。
   脳について詳しく説明する前に、脳の構造と脳各部の機能についてご紹介しましょう。 脳の機能をご覧になる際には、図1および図2に示す脳の構造図を参考にして下さい。
   図1の中に記載された数値は、ブロードマンの脳地図における番号を表します。 コルビニアン・ブロードマは、大脳皮質組織の神経細胞の組織構造が均一である部分について、1から52までの番号を付けました。 これをブロードマンの脳地図と呼び、脳の部分を表現する時に、数字に"野"を付けて呼ぶことがあります(例えば 25野)。 19世紀初頭から、脳は各部分ごとに異なる機能を担っているとする 脳機能局在論 のうきのうきょくざいろん がありますが、ブロードマンの脳地図はこの脳機能局在論を強く支持しました。

脳各部の機能

   以下、脳各部の機能について詳しく見てみましょう。

脳幹 のうかん の場所と機能

   脳幹 のうかん (Brain Stem) とは、視床・視床下部・下垂体から構成される間脳と、中脳・橋・延髄から構成される下位脳幹(狭義の脳幹)で構成されます。 脳幹は、呼吸、心拍数の調整など、人が生きるために最も基本的な役割を司っています。 このため、大脳と小脳の機能を失っても、脳幹が機能していると心臓は動きますし、呼吸もできますので、眠っているように見えます。 この状態が、植物状態です。
これに対し、大脳と小脳に加え、脳幹の機能まで失った状態が脳死(全脳死)です。 脳幹の機能を失うと、そのままでは呼吸も止まってしまいますが、 人工呼吸器(レスピレータ)により人工的に呼吸を維持すれば、心臓は自律的に動きますので、 脳以外の機能は一定期間維持することができるのです。 1997年10月に施行された臓器移植法(臓器の移植に関する法律)により、 脳死は人の死とみなされ、臓器移植のため、脳死後に臓器の摘出が可能になりました。

下位脳幹 かいのうかん (Brain Stem) の場所と機能

   脊髄とつながた脳の中心下部にあり中脳・橋・延髄から構成されています。 生命にとって不可欠な、呼吸、心拍数の調整、血管、睡眠、覚醒、消化などの基本的な機能を制御する他、反射的な動きを調節します。 報酬反応ニューロンと呼ばれるニューロンの中で、ドーパミンを放出するドーパミン生産ニューロンがある 黒質こくしつ(Substantia nigra)および 腹側被蓋野ふくそくひがいや(Ventral tegmental area: VTA) は、中脳に位置します。

下垂体 かすいたい (Hypophysis) の場所と機能

   脳下垂体とも呼ばれ、視床下部の下に垂れ下がっているように位置します。 視床下部で分泌されるホルモンに刺激され、ストレスホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)、成長ホルモン、 性ホルモン(性腺刺激ホルモン、プロラクチン)、あるいは甲状腺刺激ホルモンなど多種類のホルモンを分泌します。

視床 ししょう (Thalamus) の場所と機能

   下位脳幹の上部にある間脳かんのうの上部に位置します。 狭義の視床である背側視床(Dorsal thalamus)と、広義の視床に含まれる腹側視床(Ventral thalamus)があり、それぞれ様々な機能を持つ部位から構成されています。 視覚、聴覚、体性感覚などの感覚を大脳新皮質へ伝達する機能があります。 パーキンソン病や重度のうつ病患者に施される『脳深部刺激療法』が電気パルス刺激を与える 大脳基底核だいのうきていかく(Basal ganglia) には、 淡蒼球たんそうきゅう(Globus pallidus: GPi)、 視床下核ししょうかかく(Subthalamic nucleus: STN)、 視床中間腹側核ししょうちゅうかんふくそくかく(Ventral intermediate nucleus of thalamus: Vim) は広義の視床である腹側視床に含まれる

視床下部 ししょうかぶ (Hypothalamus) の場所と機能

   文字通り視床の下部に位置し、自律機能の調節を行う総合中枢として、交感神経・副交感神経の機能を総合的に調節しています。 また、ホルモンの内分泌機能を総合的に調節している部分でもあります。 ストレスに関連するホルモン(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)、 成長ホルモンを制御するホルモン(成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン抑制ホルモン)、 性ホルモンを制御するホルモン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン、プロラクチン放出因子、プロラクチン抑制因子)、 あるいは甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンなど多種類のホルモンを分泌するホルモンの中枢です。 性行動、空腹、喉の渇き、体温、睡眠など、本能行動の中枢です。

その他の脳の場所と機能

側坐核 そくざかく (Nucleus accumbens: NAcc) の場所と機能

   左右の前頭葉の内側下部に位置する直径2mm程度の小さな部分です。 食事、金、あるいは性的快感などの喜びに対応する、『脳の報酬システム(brain's reward system)』の核心部分だと考えられ、『やる気の脳』とも呼ばれています。 また、神経伝達物質であるドーパミンを産生する神経細胞(ドーパミン生産ニューロン)からドーパミンが供給されることにより、この脳の報酬システムが機能すると考えられています。 このため、このドーパミンが不足すると、パーキンソン病やうつ病を発症すると考えられています。

松果体 しょうかたい (Pineal body) の場所と機能

   左右の視床間の下部に位置する直径8mm程度の小さな内分泌器です。 約24時間周期で変動する生理現象である、概日がいじつリズムを調節するホルモンであるメラトニンを分泌します。 子供の松果体は大きくメラトニンを多量に生産しますが、思春期になると松果体が縮小し、メラトニンの生産が減少するため、メラトニンは性機能の発展を抑制していると考えられています。

背側線条体 はいそくせんじょうたい (Dorsal striatum) の場所と機能

   線条体には背側線条体と腹側線条体がありますが、単に線条体と言えば背側線条体を指します。 大脳基底核だいのうきていかくの構成要素であり、 運動機能に関与する他、報酬に反応して意思決定する機能があると考えられています。

扁桃体 へんんとうたい (Amygdala) の場所と機能

   アーモンド形の神経細胞の集まりで、高等脊椎動物の側頭葉内側の奥、人間で言えば両耳の上辺りに位置します。 恐怖や不安な出来事の記憶に関連した機能を持っています。 動物が敵に遭遇した時、逃避の引き金になるのは扁桃体の機能によるものです。 また、海馬での記憶を強化に関連することも知られています。

海馬 かいば (Hippocampus) の場所と機能

   側頭葉の内側、両耳の奥に位置し、小指程度の大きさです。 形状がギリシャ神話のポセイドンにまたがる海馬に似ていることから命名されています(タツノオトシゴ(別名 海馬)の由来と同じ)。 情報を整理し記憶したり、空間を学習する機能に関連し、 脳内の器官としては、唯一新生ニューロンの誕生が確認されている器官です。 また、ストレスや虚血に対して弱い器官であり、アルツハイマー病において最初に変化が検知される部位としても知られています。

脳梁 のうりょう (Corpus callosum: CC) の場所と機能

   左右の大脳の中心部に位置します。 左右の大脳をつなぐ神経線維の束であり、左右の大脳皮質の間で情報をやり取りします。

帯状皮質 たいじょうひしつ (Cingulate cortex) の場所と機能

   脳梁を取り巻く位置にあり、前帯状皮質(Anterior cingulate cortex: ACC)と後帯状皮質(Posterior cingulate cortex: PCC)があります。 実行、評価、認知、情動に関連した機能があります。 前帯状皮質は、難しい問題解決の実施など、実行意欲に関係していると考えられています。 特に、うつ病患者のあるグループは、ブロードマンの脳地図の『25野』の活動が低下していることが知られています。 そして、この部分への電気刺激(電気けいれん療法)により、うつ症状の改善が見られたという報告もあります。

前頭連合野 ぜんとうれんごうや (Frontal Association Cortex) の場所と機能

   前頭葉の前部に位置し、人間では大脳皮質の約30%を占めます(サルが約12%、猫が約7%)。 情動のコントロールや、論理的な推論、将来の予測、判断、計画の立案など、哺乳動物の高度な機能を行う部分のことです。

脳の構造図

脳の構造図:中心断面・内側表面(脳幹・側坐核・松果体・小脳)
図1 脳の構造図:中心断面・内側表面(脳幹・側坐核・松果体・小脳)
脳の構造図:外側表面(各連合野・海馬・扁桃体・小脳)
図2 脳の構造図:外側表面(各連合野・海馬・扁桃体・小脳)
最終更新日:2011年7月30日

  

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