ストレスが脳に及ぼす影響
ストレスはホルモンの中枢と呼ばれる
視床下部によりコントロールされます。
即ち、何らかのストレスが加わると、視床下部から
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン
(Corticotropin releasing hormone: CRH)が分泌され、
これが、下垂体に作用し、副腎皮質刺激ホルモン(Aadrenocorticotropic hormone: ACTH)が分泌されます。
さらに副腎皮質刺激ホルモンが副腎皮質に働きかけて、グルココルチコイドと呼ばれるストレスホルモンが分泌されます。
適度なストレスであれば、グルココルチコイドは海馬あるいは扁桃体の受容体に作用し、我々の気持ちや意欲を刺激することにより、学習機能を高めてくれます。
しかしながら、過度なストレスが長期に渡って加わり、グルココルチコイドが過剰に分泌されると前頭前野、海馬あるいは扁桃体を傷つけ、
作業記憶(メモを取るまでの記憶等、ごく短期の記憶)や学習機能を著しく低下させてしまいます。
ところで、我々は記憶と忘却を繰り返していますが、これは全て海馬や大脳皮質にあるニューロンのシナプスによるネットワークの強化と抑圧によるものです。
情報は
ニューロンの軸索を電気信号として伝わりますが、
これの電気信号がシナプスに到達すると神経伝達物質が放出され、化学信号として隣のニューロンに伝達され、
ニューロンの活動電位が急激に高まります(これをニューロンの発火と呼びます)。
そして、同時に複数のニューロンの複数のシナプスが活性化されることにより、一連のネットワークが強化され、記憶となる訳です。
この強化を
長期増強(Long Term Potentiation: LTP)と呼びます。
また、LTPだけでは、無限にシナプスが必要となり、そのうち新しい情報を学習することができなってしまします。
弱い電気信号がシナプスに到達しても、隣のニューロンが発火しない場合があります。
このときにはシナプスの結合が弱くなり、忘却となる訳です。
これを長期抑圧(Long Term Depression: LTD)と呼びます。
もちろん、新たなシナプスの生成や、古いシナプスの消滅も繰り返されていますが、LTPやLTDを含め
『シナプス可塑性』と呼びます。
このシナプス可塑性は、文字通りシナプスの加工のしやすさ、即ち、脳の柔軟さ・若さを表す一つの指標になる訳です。
グルココルチコイドにより前頭前野、海馬と扁桃体が傷つくと、シナプ可塑性が阻害されてしまいます。
そして、前頭前野は、作業記憶の機能がありますので、短期記憶が阻害されます。
また、海馬は大脳皮質と共に、記憶生成に直接影響し、扁桃体も海馬のLTPに影響を及ぼすことが知られていますので、
学習機能を著しく低下さ、時には記憶障害を引き起こすこともあります。
ストレスホルモンの分泌を抑制する方法
前項で、ストレスホルモンの分泌メカニズムが、
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)→副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)→グルココルチコイド(ストレスホルモン)
であることを解説しました。
これから、ストレスホルモンの過剰分泌を抑制するためには、CRHの分泌を抑制すればよいことがわかります。
ここでは、CRHの分泌を抑制する方法をいくつかご紹介しましょう。
脳細胞の増加には不可欠な神経系のタンパク質である
脳由来神経栄養因子(Brain Derived Neurotrophic Factor: BDNF)
の増加により、CRHの分泌を抑制する働きがあることが知られています。そして、この BDNF を増やすには、以下の項目が効果的です。
- 1回30分以上の適度な運動を週3日以上を習慣化する。
- 恋愛をする。
- 食事制限による適度なダイエット。
また、直接CRHの分泌を抑制する方法としては、以下の項目が効果的です。
恋愛による性ホルモンの増加は、BDNFをアップすることによる効果だけではなく、
直接CRHの抑制にも働きますので効果抜群ということですね。
一般的にストレス解消に効果があると言われる方法が、脳科学的にも正しいことが証明されつつあります。
最終更新日:2011年3月16日