うつ病の治療が難しい理由
治療が難しい根本原因は、うつ病が『心』、即ち『脳』の病気だからです。
脳科学が急速に進歩したとはいえ、環境に応じて急速に進化してきた人間の脳の各部分の大まかな機能が解明されつつあるレベルでしかなく、
その根本的な治療法方まで解明されている訳ではありません。
PET(ポジトロン断層法)やNIRSによる、
うつ病患者の脳の計測結果から、うつ病が脳の代謝や血流障害と大きく関連していることは間違いないでしょう。
脳の代謝とモノアミン系の神経伝達物質であるセロトニンやノル・アドレナリンの量が関連している事実がありますから、
うつ病の原因がモノアミン系の神経伝達物質の不足であるという『モノアミン仮説』も大きくは違わないでしょう。
しかし、これが、『抗うつ薬を使ってモノアミン系の神経伝達物質の量を増やせばうつ病を治療できる』ことに直結する訳ではありません。
脳はそれほど単純ではなく、脳の特定部分の神経伝達物質の過不足により、症状が異なるのです。
面白い例をご紹介しましょう。
神経伝達物質であるドーパミンが不足するとパーキンソン病になりますが、
パーキンソン病の代表的な治療法として
大脳基底核
に電気パルス刺激を与える『脳深部刺激療法』があります。
脳深部刺激療法では、刺激する部位により改善される機能に違いがある訳ですが、
わずか数 mm ずれた位置を刺激するとうつ状態が出たり、またわずか数 mm ずれた位置を刺激すると
躁状態になることが報告されています。
脳深部刺激療法のメカニズムが完全に解明されている訳ではありませんが、
電気刺激により一時的に神経伝達が妨害されたという仮説(
脳関連[8])
が的を得ているように思います。
このため、神経伝達物質が減った時と同じ効果が現れたのでしょう。
だとすれば、薬物療法は脳全体の神経伝達物質の量をコントロールしますから、単にうつ病を治療するだけではなく、多くの副作用を伴うのは当然でしょう。
このため、
うつ病の事例紹介で述べたように、
SSRIやSNRI等の抗うつ薬は、確かにセロトニンやノル・アドレナリンの再取り込みを抑制することにより、神経伝達物質の量を減らさない効果は確認されているようです。
しかしながら、以下のような重大な落とし穴も併せ持ちます。
- 従来の抗うつ薬に比較して副作用が軽いとは言え、以下のような多岐にわたる恐ろしい副作用が出る可能性がある。
- アクティベーション症候群: 攻撃性の増大、自殺企図、不安、焦燥、興奮、衝動性、混乱・もうろう状態、幻覚、発汗、体のぴくつき、ふるえ、けいれん
- 悪性症候群: 急激な体温上昇、筋肉のこわばり、体の硬直、発汗、ふるえ、意識もうろう
- 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群: だるさ、のどの渇き、頭痛、吐き気、けいれん、意識もうろう、気絶
- 肝臓の重い症状: 食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色化
- その他: 精神的変調、幻覚、幻聴、せん妄、錯乱、興奮、動悸、めまい、便秘、下痢、眠気、性機能異常、発疹、発赤
- 神経伝達物質再度取り込み扉の形が服用した抗うつ薬と合わない場合は、殆ど効果が無い。
- 副作用を見ながら徐々に量を増やして行くため、薬の効果を確認するのにおよそ3か月程度かかる。
- 服用を急に停止すると薬の血中濃度が下がり、めまい、ふらつき、吐き気、嘔吐、頭痛、不眠、疲労感などの離脱症状が出る。
- 仮に元の状態に回復したとしても、負のスパイラルを抜け出た訳ではないので、再発率が高い。
このため、SSRIやSNRI等の抗うつ薬を用いてうつ病を完全に治療するのはかなり難しい訳です。
抗うつ薬の種類を4回変えても効果が上がらなかった患者が35%もいたというアメリカの調査結果があります。
また、入院経験のあるうつ病患者を15年間追跡調査をした結果、1度も再発しなかった患者が20%、
うつ症状が変わらない患者や自殺で命を落とす患者が20%、うつ症の再発を繰り返す患者が60%だという英国やオーストラリアの報告もあります。
一般的には、うつ病患者の約50%が再発し、再発した患者の70%が再発し、再々発した患者の90%が再発すると言うように、再発率がきわめて高いのがうつ病の特徴です。
さらに、
うつ病の事例紹介でも示したように、
複数の抗うつ薬を処方されるのが一般的のようです。
これは、症状が改善されない場合は、薬の種類と量を増やして行く日本独特の『多剤療法』という悪習慣に基づくもので、患者にとっては経済的にも精神的にも負担になっています。
このような医者は医者としての品位も資格もありませんが、残念ながら大多数の医者がこのように品位の無い医者です。
患者自らが勉強し、医者を選択する以外に自分の身を守る方法はありません。
以下の項目の中で、1つでも該当する項目があれば、おかしいと疑った方がいいでしょう(恐らく殆どのメンタルクリニックが該当するはずです)。
- 初診で抗うつ薬を処方された(副作用が強い抗うつ薬は普通なら初診では処方しないはず)。
- アクティベーション症候群など重大な副作用や離脱症状の説明なしに抗うつ薬を処方された(抗うつ薬は始め方・終わり方が重要なので必ず念を押して説明されるはずです)。
- 10問程度以下あるいは10分程度の簡単な質問で抗うつ薬を処方された(初期のうつ病患者に抗うつ薬を処方するとより悪化させたり、躁うつ病に変化したりする可能性があります。
また、重症患者でも、うつ病性障害(いわゆるうつ病)と双極性障害(いわゆる躁うつ病)では処方が異なります。
双極性障害の患者さんが抗うつ薬を飲むと自殺に至るケースもあります)。
- 明確な理由も無く2種類以上の抗うつ薬・抗不安薬を処方された(多種類の効果が類似した抗うつ薬・抗不安薬を飲んだからといって症状が改善する訳ではありません)。
- 投薬以外の選択肢を示さない(手間はかかるが認知行動療法などの心理療法をはじめ、様々な工夫をしないと完治は難しいのです)。
セロトニンやノル・アドレナリンの量を増やすのは、SSRIやSNRI等の抗うつ薬の投与だけではありません。
脳科学で解明されている事実を使用して、自ら良い生活習慣を身に付けることにより、
セロトニンやノル・アドレナリンの分泌量を増やすことがより本質的な治療あるいは予防と言えるでしょう。
最終更新日:2011年3月5日