脳と視覚

   視覚(Sense of Sight)は、目から入力された光から画像を処理する基本的な機能と、その画像から外界を認識する高度な機能があります。 画像を処理する部分は、網膜にある『錐体すいたい細胞』が、 ビデオカメラと同様に、R(赤)G(緑)B(青)の3色の強度を検出し、ニューロンにより 視床を経由して後頭葉に伝わります。 また、暗闇では、錐体細胞に代わって、感度が高い『桿体かんたい細胞』が光の強さを検出します。 桿体細胞の機能は、感度が高い代わりにRGBを識別することが出来ない赤外線カメラに類似しています。
   後頭葉に伝わった光の信号、即ち2次元の視覚画像は、隣り合ったニューロンの信号から色や明るさが判断され、視覚画像の中にある3次元の物体として認識します。 この画像認識はかなり高度な技なのです。 例えば、画像の中の黒い部分が影なのか、それとも黒い物体なのか、周辺画像や置かれている状況から判断する訳ですが、個人の感情によりゆがめられることもあります。 黒い物影を人と間違えたり、相手が普通に会話しているのに怒っていると感じたりという錯覚は、比較的簡単に起こります。
   例えば、顔認識システムが典型的な例でしょう。 日本に在住するロシア人の小学生(キリル君:仮名)が日本に来たばかりの頃、『なぜ日本人はみんな顔が似ているの?』という疑問を持ったそうです。 キリル君は、幼少時代からロシアで生まれ育ちましたので、ロシア人の顔以外は殆ど見たことがなかったでしょう。 そんな彼にしてみれば、ロシア人の顔の平均値から大きく外れた日本人の顔は、イケメンもそうでない人も同じような顔に見えたのです。 これも錯覚の一種でしょう。
   顔の認識するのは、側頭葉の下部の紡錘状回ぼうすいじょうかい(Fusiform Gyrus)の中にある 紡錘状顔領域ぼうすいじょうかおりょういき(Fusiform Face Area: FFA)という部分であることが知られています。 そして、紡錘状顔領域を損傷すると人の顔の区別がつかなくなるようです。 キリル君はまだ若く、ロシア人の顔の平均値から大きく外れた日本人の顔を認識する能力が無かったため、区別がつきにくかったのでしょう。 宇宙人が、地球に来た当初には、『なぜ地球人はみんな顔が似ているの?』という疑問を持つかも知れませんね。
   このように、人は育った環境や置かれている環境、あるいはその時々の感情により、簡単に錯覚を起こすことを認識してください。 正しく認識するということは、 認知行動療法(Congnitive Behaviour Therapy: CBT) において重要です。


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