不安障害とは
不安障害(Anxiety Disorder)とは、不安や恐怖を発端とする精神疾患の総称です。
ある不安や恐怖を感じる状況に置かれた時に急激に不安が高まる急性不安障害と、
職場などで長くストレスを受け続けることにより発症する慢性不安障害があります。
どちらのケースも、極度の不安や恐怖により、イライラ感、不眠、動悸、頭痛、下痢、震え・吐き気・めまい・赤面・発汗などといった身体症状が現れる事があります。
不安や恐怖といった感情は動物や人間にとって不可欠な感情です。
不安に感じるために事前に十分準備や練習を行ったり、恐怖を感じるために逃避するなど、生活するための重要な行動を引き起こすからです。
不安や恐怖の原因をしっかり認識し、不安や恐怖という感情をうまくコントロールすることが不安障害の効果的な予防方法と言えるでしょう。
不安障害の原因
人間が不安や恐怖を感じるのは、
扁桃体の機能によるものです。
即ち、
ストレスが脳に及ぼす影響で述べたように、
適度なストレスにより、
視床下部
を経由してグルココルチコイド(ストレスホルモン)が分泌されると、
これが扁桃体を刺激して不安や恐怖を感じ、心臓がドキドキしたり息苦しくなったりします。
程度の差はありますが、これは身を守るという哺乳動物が持つ、本能的な機能なのです。
また、冷静に考えたり、何かに集中するという行為により、
前頭連合野が活発に活動するようになり、
扁桃体の活動が抑制され、不安や恐怖という感情を抑えることができます。
不安障害を抱える方は、自分自身に注意が偏っているため、前頭連合野の活動が弱く、扁桃体が活発に動き過ぎるのです。
モダンCBT(モダン認知行動療法)では、自分自身に集中するのではなく、集中する対象を制御するトレーニングを行うことにより、
不安障害を予防したり治療したりする方法が提案されています。
不安障害は、症状から何種類かに分類されていますが、その根源は不安や恐怖であり、その主原因として以下のどちらかが該当するようです。
- 扁桃体が活発化し過ぎる。
- 前頭連合野の扁桃体の活動抑制機能が弱過ぎる。
不安障害が発症する原因の一つとして、遺伝的要因があります。一般的に、親戚に不安障害の人を持つ方が、不安障害になる確率は、そうでない方の5倍にも高まると言われています。
遺伝子障害の患者の遺伝子には数十~100の遺伝子座(遺伝子の位置)が関係していることが明らかになってきています。
特定の遺伝子座において、ストレスに対して『傷つきやすい型』と『傷つきにくい型』という一対の対立遺伝子があり、
2つの『傷つきやすい型』を受け継いだ方は、ストレスに対して弱くなります。
また、生育環境も不安障害の一因になります。
幼児期に母親から愛情を持って育てられると、成長後にストレスに対して強くなります。
これは、海馬や扁桃体にあるストレスホルモン受容体が活性化されるため、ストレス耐性が強化され、その結果ストレスホルモンの分泌が減少するためだと考えられています。
逆に、幼児期に虐待を受けたり、厳しすぎる一貫性のないしつけ等を受けることにより、成人後もストレスに弱くなり、不安障害やうつ病を発病するリスクが高まります。
ただ、『傷つきやすい型』の遺伝子を持ち、不幸な幼児期を過ごした方でも、成人後の生活環境が豊かであれば、不安障害やうつ病に陥るリスクは軽減されますので、
生活環境を豊かにする努力も不安障害の効果的な予防方法と言えるでしょう。
不安障害の予防法・治療法
うつ病と同様、重度の場合にはSSRIなどの薬物療法や心理療法を併用した治療が行われます。
うつ病の治療が難しい理由
で述べたように、日本のメンタルクリニックは、軽度の患者に対して安易にSSRIなどの抗うつ薬を使用するため、精神疾患を重症化する傾向にありますので注意が必要です。
不安障害の治療法・予防法のポイントは、前述の通り、不安や恐怖という感情を生み出す扁桃体のコントロールにあります。
このためには、以下の行動が有効です。
- 気をそらす ・・・
音楽を聴いたり、美しい絵を鑑賞したりしている時は、扁桃体など感情にかかわる脳領域の活動が弱まり、前頭連合野の活動が活発になるため、否定的な感情が起こりにくくなります。
否定的な感情が起こりそうになった時には、別の楽しいことを考えるようトレーニングすることが効果的でしょう。
- 意識をコントロールする(集中する) ・・・
『やることがない』状態では、過去のいやなことを思い出して扁桃体を刺激してしまいますが、逆に読書に集中している時は、周囲の雑音は聞こえず、時間が経つのも忘れてしまいます。
集中することも『気をそらす』ことと同様に前頭連合野の活動を活発にしますので、否定的な感情が起こりにくくなります。
ヨーガ(Yoga)や座禅では、瞑想により精神統一行いますが、これも一種の雑念を捨て、あることに集中することにより達成できます。
実際、ヨーガセラピー(ヨーガ療法)では、意識をコントロールし、自分を客観視できるような訓練を行います。
- 感情を再評価する ・・・
例えば、スピーチやプレゼンで大観衆を前にした時、どんなになれた方でも、『失敗したらどうしよう』、『自分の意見に反対されるんじゃないか』などの不安感情を持つのは当然でしょう。
しかし、ストレスに強い人はこのような感情に押しつぶされることなく、『失敗してもジョークで切り抜けられる』、『反対意見の人もいれば賛成意見の人もいる(色々な見方がある)』
など、感情の意味を再考あるいは再評価すことにより、過剰なストレスから逃れます。
人間は、他の哺乳動物に比較して前頭連合野の比率が大きく、この機能を活用することにより不安や恐怖を緩和できる訳です。
- ストレスホルモンの分泌を抑制する ・・・
ストレスに弱い遺伝子を持ち、不幸な幼児期を過ごした方でも、成人後のストレスが発生しにくい生活環境であれば不安障害やうつ病が発症するリスクは低くなります。
中程度より軽いの不安障害の方であれば、認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioural Therapy)が有効でしょう。
CBTでは、あなたの考え方(認知)と行動を変化させるためのトレーニングを行い、上記の行動が無意識で取れるよう手助けをしてくれます。
不安障害の分類
不安障害は症状や不安原因に応じて細分化されています。
主要な不安症は以下の通りです。
恐怖症(Phobia)とは、ある特定の対象(空間・人・動物など)に対して、極度の不安や恐怖を抱くことにより発症する精神疾患の総称で、空間恐怖症、社会恐怖症、対人恐怖症などがあります。
全般性不安障害(Generalized Anxiety Disorder: GAD)とは、天災・事故や病気など、特定の理由ではない不安や恐怖が長期間続き、日常生活に支障をきたすような不安障害です。患者数は、人口の5~6%程度と言われています。
パニック障害(Panic Disorder: PD)とは、不意に起こる『パニック発作』を伴うことに特徴付けられる不安障害です。日常のストレスや不安を溜め込むことにより、突然、空間恐怖症と類似の症状に襲われます。患者数は、人口の1~2%程度と言われています。
心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder: PTSD)とは、心理的に受けた衝撃的な出来事(事故、事件、虐待など)により陥る不安障害のことで、出来事から1ヶ月以上持続する長期的な障害を言います。
強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)とは、汚染や感染、火事、強盗などに対する不安感が頻繁に頭をよぎり、 これを打ち消すために、手洗いや、火元確認、戸締り確認などの強迫行為をやめることができない不安障害の一種です。脅迫行為に対する無意味さを感じているケースは多いのですが、それ以上に強迫観念が強くやめることができないのです。
身体醜形障害(Body Dysmorphic Disorder: BDD)とは、髪の毛、鼻、皮膚、目、歯並びなど、外見についての想像上の欠陥や、小さな身体的異常(体型や大きさなど)により、『自分の容姿が醜い』と思い込んでしまう不安障害です。