不安・恐怖に勝つ
不安・恐怖をやわらげるで、
『不安に基づく思考を強引に抑制しない』ということを述べました。
では、不安や恐怖を感じる状況に置かれた場合、どうすれば良いのでしょうか?
その答えは、『何もしない』が正解です。
ただ、不安や恐怖を感じながら、その不安感や恐怖感が徐々に薄れていくのを感じてください。
不安や恐怖に打ち勝つには、自分をその環境にさらすことにより、不安や恐怖に対する過敏性を減らして行くのが正しい方法です。
正に、『戦わずして勝つ』のです。
段階的に恐怖に身をさらす
図1 恐怖に身をさらすテストのおけるあなたの恐怖感の変化
あなたが最も不安を感じる状況にいきなりさらされると、症状の改善は速くなる可能性がありますが、
あまりの怖さのため、途中で逃げ出したり、安全行動を取るかも知れません。
また、あまり不安感を感じない状況にさらされていると、症状の改善は遅く、途中でやる気がなくなってしまうかも知れません。
このため、あなたが恐怖を感じる状況をリストアップし、恐怖を感じない順に並べ、簡単な順番でさらして行くのが良いでしょう。
さらす時間は1回当たり数10分~1時間程度としますが、恐怖感が少なくともピーク時の半分以下になるよう調整してください。
また、恐怖に身をさらすテストは、反復して行いましょう。
このテストにおいて、あなたの恐怖感は、概ね図1のような曲線で表されるでしょう。
この曲線をイメージし、
1回目よりも2回目、2回目よりも3回目という具合に、恐怖感のピークが徐々に弱くなり、恐怖感が低減される時間も短くなって行くのを体感してください。
そして、その難易度の課題がクリアできれば、次に高い難易度に移り、同様にさらす行為を繰り返して下さい。
一気にチャレンジ
一般的には、段階的に恐怖に身をさらすことを推奨していますが、必ずしも最も恐怖を抱く状況にいきなり身をさらすことを否定している訳ではありません。
あなたが、途中で逃げ出したり、安全行動を取らないという自信があるようでしたら、これも選択肢の一つと考えてください。
比較的症状が軽い方であれば、最も恐怖を抱く状況にいきなり身をさらす方が、段階的にさらすよりも、不安や恐怖を克服する時間が短縮されます。
また、いきなり最も恐怖を抱く状況にさらすとはいかないまでも、中程度に恐怖を抱く状況に身をさらすことから始めることも考えてみる価値があるかも知れません。
個別の不安障害に立ち向かう
ここでは、個別の不安障害についてCBTの適用方法について考えてみましょう。
なお、CBTの原理は、ここに述べる不安障害以外にも適用可能です。
社会恐怖症に立ち向かう
社会恐怖症に立ち向かうには、
まず、あなたが恐れ、避けている社会状況と、あなたが取りがちな安全行動をリストアップすることから始めましょう。
仮に、他人があなたを嫌いであったり、あなたがこのよう妄想を抱いていたとしても、まずあなたが許容できる考えについて固執し、
どうやってあなた自身が、ウィット(機知)に富み、新規性にあふれ、面白く、ユニークになれるか、柔軟に考えてみてください。
そして、あなたが物事に一生懸命従事しなかった場合、人々があなたをどう思うか、予測してみましょう。
また、あなたの集中力を、自分自身に向けるのではなく、あなたが関係する人々に向けてみましょう。
なお、集中力のコントロール方法をトレーニングするには、
思考の管理方法 - 集中
を参照してください。
パニック障害に立ち向かう
パニック障害の方は、不安による肉体的な感覚の変化を危険と勘違いすることにより、
不安が増長し、さらに肉体的な感覚の変化を激しくするというパニック発作と呼ばれる危険なサイクルに陥ってしまいます。
パニック障害の方は、パニック発作が起こるかも知れないと考え避けていた、あるいは安全行動により抵抗していた状況にあえて身をさらします。
そして、例えば、めまいがした場合でも、『めまいは私を破綻させるものではないので座り込む必要はない』と自分自身に言い聞かせて下さい。
また、他の肉体的な感覚の変化もあなたを傷つけることなく過ぎ去るのを待ちます。
パニック発作の結果として、あなたが恐れている惨事が本当に起こり得るかどうか、
行動実験のすすめで行動実験を実施してみてください。
ほとんどの場合、惨事が起こる確率は極めて低いことに気がつくはずです。
広場恐怖症に立ち向かう
広場恐怖症の方は、自宅など自分が慣れ親しんだ場所から離れることができません。
自分の見知らぬ場所で、吐いたり下痢になったりして、自分を汚してしまっってパニックになることを恐れている場合が多いようです。
このため、ご主人やご両親に過度に負担を強いることになってしまいます。
このような広場恐怖症の方は、まず、自分が恐怖を抱いている場所につして、恐怖の低い順に並べ、段階的に恐怖に身をさらすようにしてください。
そして、恐怖がある程度和らぐまでその場所に留まるよう努力してください。
また、この時、座り込んだり、何かにつかまったりという安全行動をしないよう努力してください。
そうすれば、あなたが不安になっても、あなたが考えていたようような恐ろしいことは何も起こらないことに気づくでしょう。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に立ち向かう
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の方は、
全ての不安、恐怖あるいは苦痛を、衝撃的な出来事に関連付けたり、衝撃的な出来事を無理に抑制したり、
自分を極端に安全な場所に置くという安全行動を取りがちになりますので、PTSDを長引かせてしまう傾向があります。
PTSDを治療するには、無理に記憶を抑制したり消そうとしたりしてはいけません。
白い犬の実験
で明らかになった通り、記憶を消すために強引に思考を抑制しようとすると、
逆に消そうとした出来事が頻繁に頭をよぎり、逆効果なってしまいます。
PTSDに立ち向かうためには、まず、あなたの頭をよぎる衝撃的な出来事の記憶やこれに伴う苦痛が、
あなたが過去に受けたトラウマ(精神的に受けた衝撃による精神的外傷)に対抗するための正しい反応であることを認識してください。
そして、衝撃的な出来事の記憶が、あなたの思考に割り込み、苦痛を感じているのは、
トラウマから回復するための重要なプロセスであるのですから、これを許容する寛容な心を持ってください。
意識的に、PTSDの原因となる衝撃的な出来事の記憶に立ち向かったり、
自分自身に関する報告書(First-person account)を書いたりすることが、PTSDの克服に有効であることが明らかになって来ています。
過去の惨事は、過去のものとしてしっかり受け止め、過ぎ去った事実として、自分の心の中で確実に処理を完結させることが大切でしょう。
そして、過剰に安全行動を取らないよう心がけることも大切です。